世界的パンデミックが高めるCBDCへのシフトの機運

世界的パンデミックが高めるCBDCへのシフトの機運

『今までの』通貨のあり方

通貨は、何千年もの間進化し続けてきた社会的なシステムのひとつであり、その形態のひとつひとつが、信頼できる交換媒体や勘定単位、あるいは価値の保存といった必要不可欠な機能を各々担っています。しかし、通貨の既存の形のうち、その必要な機能の全てを「同時に」満たすことができるとされるものはひとつとしてありません。例えば電子マネーは交換媒体としては便利ですが、金やダイヤモンドと比べると、価値の保存としては信頼できる機能を有しているとは言い難いでしょう。

今日、中央銀行は、こうした通貨の形を、一般顧客や銀行、金融機関に対するリスクフリーの支払い方法として提供しています。一般の人々は中央銀行が発行する通貨を紙幣という形で保持することができる一方、銀行や金融機関は、この通貨を銀行の支払準備金に電子媒体として保持するのが、従来のお金の在り方でした。

コロナウイルスとデジタルマネーへのシフト

デジタルエコノミーへの急速な進化と高まる需要により、世界中のより多くの中央銀行が独自のデジタルマネーの発行を考慮・実験しつつあります。それが中央銀行デジタル通貨(CBDC)です。これは世界中どこからでもアクセスが可能で、取引を行ったり、価値を安全に保存したりといった機能はもちろん、特に重要なこととして中央銀行のお金の電子的形式を完全に管理された状態で保ったりするために広く一般に用いられるものです。

CBDCの発行について中央銀行がますます前向きに検討するようになっている理由として、コロナウイルス(COVID-19)の世界的パンデミックがあります。紙幣がこのウイルスの感染経路になっているという根拠は乏しいものの、国際決済銀行(BIS)イノベーション・ハブの長であるブノワ・クーレ(Benoît Cœuré)氏は、先日のパネルディスカッションにおいて、このパンデミックが私たちの暮らしのデジタル化に対して与えた影響を強調し、「経済歴史学者は、CBDCの発展速度が最高潮に達したきっかけとしてCOVID-19を記憶することになるだろう」と述べています。

Payments after the COVID crisis – emerging issues and challenges(ポストCOVIDクライシスの支払い方法 – 来たるべき問題と課題)のスピーチにおいて、FMI(Financial Markets Infrastructure)のエグゼクティブディレクターであるクリスティーナ・ノールズ(Christina Segal Knowles)氏もまた、民間資金の大半を占める更に安全な代替案としてCBDCが持つ重要性を強調しています。このスピーチの中で、CBDCはデジタルエコノミーにおける将来的な支払いのニーズに応えることのできる新たな可能性を提示してくれ、また現金利用の減少による影響への対処や、国境を越えた支払いの改善のための基盤にも繋がるだろうと言われています。

どうして中央銀行デジタル通貨なのか?

こうした危機的状況の時代において、政府対個人(G2P)の支払いは重要な意味を持ちます。世界中の政府は、COVID-19による経済的・社会的影響に対して効果的に対応する方法を模索しており、その中には、多くの人に安全に現金を配布するための従来の手法を試している政府も存在します。しかし、こうした既存の手法では、特に直接取引が奨励されない状況下においては制限も大きくなります。このため、政府は、従来の社会的保護機構の外にいる人々に直接資金転送を行うことができる新たな手法として、CBDCの導入を検討し始めたのです。

また、ビットコインやその他の暗号資産のような規制されていないデジタル通貨と異なり、CBDCは中央銀行の完全なる規制・管理・監視下にあります。法定通貨としての役割を果たし、国の通貨との一対一の交換レートを維持しつつ、銀行口座や民間資金に対するリスクの無い代替案となって、支払いシステムにおける金融上および信用リスクを軽減しながら、金融の安定性を高めることができるのです。

景気後退時の異例の金融政策として、例えばヘリコプターマネーや融資、量的緩和政策などを行う場合の経済への影響についても、いくつもの調査や論文を経て、経済学者たちの調査や分析の対象となっています。CBDCもまた、技術的イノベーションとカスタマーサービスといった形で銀行との新たな競争を促進するものであり、新たな市場参入者を呼び込んだり、究極的には現代的な金融サービスが促進されたりすることにもなるものです。

CBDCの技術的アプローチ

CBDCを導入する上ではいくつかの技術的アプローチが存在します。このときに採択されるアプローチは、CBDCが中央銀行の最終的な目的をどれだけ満たすか、またこれに関連するデザイン決定について、重大な影響を与えることとなります。例えば、一般からも広くアクセス可能にする場合、ブロックチェーンベースのCBDCには、回復力が高く、国中で常に利用可能なネットワークが必要になります。

現在用いられている従来の技術的スタックを用いてCBDCを導入可能であるという意見は、ある程度は正しいものです。例えば、分散アプリケーションやグリッドコンピューティングアーキテクチャは、既に高回復および効果的な取引スループットを実現しています。しかし、ブロックチェーンベースのアプローチは、より安全であると考えられます。これは、非中央集権的な、コンセンサスベースのソリューションが可能であるためです。分散型またはクラウドベースのソリューションと異なり、非中央集権的な場合、ネットワーク内で行われるそれぞれのインストラクションが、参加しているノード間におけるコンセンサスを必要とするようにします。これにより、不変かつ不可逆のレジャー(台帳)を、Single Source of Truth(真実となる唯一の情報源)によって作成できるのです。

加えて、ブロックチェーンベースのCBDCは、プログラム可能なお金の導入により、デジタルエコノミーへのシフトを促進します。プログラム可能なお金は、ブロックチェーンネットワークや自己執行権による契約条件において行われるスマートコントラクトを通じて導入されます。これにより、債務保証契約や株式といった、ブロックチェーンをインフラや革新的プラットフォームとして利用するような、新規の革新的なプロダクトやサービスが現れることも考えられます。

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