世界60ヶ国以上で、一般に「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」または「GovCoin」と言われる、国が発行するデジタル通貨の導入を検討しており、そのうち約90%以上の国において、中央銀行がCBDCの可能性を探るべく実験的なプロジェクトをすでに開始しています。

CBDCは、物理的な紙幣や硬貨をデジタルにより代替することが期待され、中央銀行は法定通貨、交換手段、価値の保存としての通貨の機能を受け継ぐことを条件にデジタル通貨を発行しようとしています。

当初CBDCは、ビットコイン、ドージコインやイーサリアムなどの中央銀行以外が発行する価格変動性のある仮想通貨の高まりに対応する形で起こりました。これらは現在、世界経済にマイナスの影響を示しています。実際には仮想通貨の出現は中央銀行によるデジタル通貨の可能性における問題点を明らかにする上で非常に役に立つものです。中央銀行の管理下にある安全性の高いデジタル通貨の発行は、金融的包括性の向上と流通通貨(M0)の管理を可能にするでしょう。

現在、CBDCは紙幣の発明以来、最も重要な金融イノベーションとして期待されています。しかしながら、この新しい技術により、利率、金融の安定性とセキュリティ、銀行の資金調達や流動性に対する影響や、注意深い評価が必要な経済的要件、法的要件、規制上の要件およびコンプライアンス要件などの新たな問題が生じています。

実験的調査

他の破壊的イノベーションと同じように、新しく出現した状況に対応する際には実験的調査のようなアプローチが求められます。世界中の中央銀行が現在このプロセスに従事しており、専門家たちはCBDCをうまく確立させるために必要な具体的な手段を検討しています。

CBDCにおける実験的調査は、3つの重要な検討事項を考慮する機会を規制当局に提供します。

1. ユースケースシナリオ

実験的調査は、現金の使われ方やEマネーの導入レベル、導入されているテクノロジーやCBDCを提示する上でテクノロジーをどのように活用すべきかなどを知ることにより、現在の国内における金融事情を評価する機会を中央銀行に提供します。

さらに、実験的調査はすべてのビジネスにおけるユースケースシナリオの「現状の」状況を精査する能力や、CBDCにおけるユースケースシナリオの「今後の」状況を構築し、予測する能力を提供します。これらには以下が含まれます。

  • トークンベース、およびアカウントベースの導入アプローチ
  • 発行、担保、償還
  • 銀行間決済
  • キャッシュイン/キャッシュアウト
  • 日中流動性管理およびスイープアカウント
  • ウォレット間の送金

2. 緩やかな導入アプローチ

CBDCのユースケースシナリオは一斉に導入することはできません。銀行間決済や日中流動性のようなリスクの少ないポイントから徐々に導入していくことが必要です。

問題が機動的に生じているときは、CBDCを緩やかに拡張し、問題に対応・解決していくことが肝要なため、ソリューションは目の前のケースに限定されるべきでしょう。

ユースケースがビジネスシナリオ分野の一部の限定的なグループに適用されたら、同じユースケースを同じ分野の別のセグメントに拡張することができます。ビジネスユースケースが完全に導入されるか、少なくともその分野の80%以上の母集団に拡張されたときに初めて、プラットフォームは他のユースケースなどを組み込むよう拡張することができます。

3. 現金とCBDCの共存

CBDCが広く導入され、その国の通貨の主要な形体になるまでの相当期間、緩やかな導入アプローチと併せて、現金とCBDCが共存することが求められます。これは中央銀行がその国のCBDCを毎年管理し、予算建てする手段に影響します。現金管理予算が徐々に減少していく一方で、CBDC分野の拡張予算は、各ビジネスシナリオまたは新しいシナリオの追加に従い増やす必要があるかもしれません。これらは実験的調査によって明確になるでしょう。

銀行が実験的調査から得られるものは?

実験的調査による正式な結果として、規制枠組み、CBDCソリューションのブループリント、手続マニュアル、および評価レポートの4つの主要な成果物を得ることができます。

銀行が実験的調査から得られるものは?

規制枠組み

銀行がビジネスプロセスを強化し、自動化するかどうか、またはCBDCなどの完全に新しいツールを導入するかどうかに関わらず、裁判管轄の法律、制定法、法令に支援される確かな法的枠組みに基づく適切な規制枠組みが必要不可欠です。

紙幣および硬貨を置換する新しい通貨代替物としてCBCDを適切に導入することをサポートする法的枠組み・規制枠組みを構築できることは探究の重要な目的の一つです。

このプロジェクトに最も期待することは、法的枠組み・規制枠組みの適切な草案をまとめることであり、これにより将来、国にCBDCをうまく導入することができるでしょう。

CBDCソリューションのブループリント

CBDC技術の可能性を検討し、模索することを目的として、国内で正式に受け入れられたCBDCソリューションの高度なブループリントアーキテクチャを構築することは、この実験的調査の主要な成果の一つです。

後の段階でこのブループリントを使用し、実際にCBDCソリューションを構築し、またCBDCが提供する可能性のあるサービスの急速な拡大に努力を傾けることができるでしょう。

手続マニュアル

規制枠組みと同様、実験的調査に期待する成果として、参加団体(銀行、決済サービスプロバイダー、一般企業など)の行動、工程、手続を定め、管理する手続マニュアルの起草および作成が行われるべきです。

評価レポート

規制枠組み、CBDCソリューションのブループリント、手続マニュアル以外の実験的調査の正式かつ主要な成果に、評価レポートがあります。国内で正式にCBDCを発行するという判断を行うため、関係者に必要な材料を提供します。

実験的調査の成功に必要なものとは?

実験的調査が成功するためは、多岐にわたるスキルと専門性が必要です。中央銀行は最低でもCBDC、ブロックチェーンおよび分散型台帳技術(DLT)の専門家、経済および規制関連コンサルタント、コンプライアンスや規制分野のアドバイザーで構成されるグループを持つことが求められます。

これは、きわめて熟練した技能、ソリューションアーキテクチャや導入における実地経験、金融分野の深い知識を多く持つ社員や卓越したリサーチャーやアナリストに加えて準備されるべきものです。もちろん基盤となる技術も同様に、本格的であるか、調整段階であるかに関わらず、調査プロジェクト全体の基本だとされることは言うまでもありません。

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