長編インタビュー:「電子小切手発行」大解剖

長編インタビュー:「電子小切手発行」大解剖

今回はProgressSoftのチーフ・ソリューション・アーキテクトであるマームード・ザメル(Mahmoud Zamel)に、電子小切手の発行に関して詳細に渡るインタビューを行いました。話はこのソリューションが誕生した理由から、それが今日の幅広い業界にどのような影響を与えるかといったことにまで及びます。

そこから面白いことも分かってきましたので、ぜひご一読ください。

  1. 電子小切手発行のソリューションが誕生したきっかけは?

あれは弊社が電子小切手決済スイート(Electronic Check Clearing Suite)を発売してから18年が経過した2016年1月のことでした。今一度、小切手の決済プロセスには改革が必要なのではないかと思うに至ったのです。

それは、事業のマーケットトレンドや世界中で見られる大きな流れから得た気づきでした。主としては以下のようなものです。

  1. ほぼ全ての国において、残高不足による小切手の不渡りの件数が減っていない。これは、支払期日時点の残高保証がない先日付小切手を発行し続ける市場行動に起因するものであり、弊社の試算によれば小切手の不渡り件数は一日あたりの決済件数の8~10%にも上る。
  2. 印刷技術の進化と共に、誰もがわずか数百ドルで高性能なプロダクション・プリンターを手にできるようになった。このため、不正小切手に悩まされる可能性が一段と高まった。2016年以降、不正な紙の小切手が取り立て時ないしは決済時に摘発される件数も増加。

これらの課題は、紙の小切手決済を、最新の暗号化によるセキュリティー対策とユニバーサルな電子記録管理システム(Electronic Records Management System, ERMS)基準の双方に準拠した同等の電子記録にまるまる置き換えることでクリアできると考えました。当時、暗号化技術が飛躍的に進歩していたことも、こうしたアイデアの可能性を後押ししました。

こうした根拠に基づき、いっそのこと物理的な紙の小切手決済と支払者の署名の両方を変えてはどうかと考えました。そこで、小切手の署名は公開鍵基盤(Public Key Infrastructure, PKI)の暗号化テクノロジーを利用した電子署名へと置き換えることにしました。

2016年10月時点で弊社の電子小切手発行ソリューションはそのプロトタイプが出来上がっており、各中央銀行に対してデモをお見せすることができました。2018年には同ソリューションをバーレーン中央銀行に導入される電子小切手決済スイートのアップグレードの一部として提案し、2019年に実際に弊社の電子小切手発行ソリューションが同行に導入されました。これにより、同国ではすべての銀行と民間決済サービス事業者にて本サービスが利用可能となりました。この種のソリューションとしては世界初のものだと考えられます。

  1. ソリューションの詳しい仕組みは?

簡単に言うと、銀行はこれまでの紙の小切手帳と同様にシリアルナンバー付きの電子小切手帳を発行します。ただし、印刷の手間や末端の消費者へ実物の小切手帳を届ける手間は無くなります。

一旦銀行によってこうした新たなシリアルナンバーが発行されれば、支払者はすぐにでも小切手を切ることができるようになり、本ソリューションの提供するモバイルアプリや公式ウェブポータル、オンラインバンキングを利用して電子小切手にデジタル署名を行えるようになります。デジタル署名と言っても、スタイラスペンで署名を書くのではなく、特殊な暗号化鍵を用いて支払者専用の「暗号化デジタル署名」を生成します。支払者が電子小切手サービスに登録する際に、このデジタル署名がユーザー情報に添付されるのです。

また法人顧客においては、電子小切手を用いて社内の権限マトリックスを作成することも可能になります。事務担当者や会計士には、スマート自主登録プロセスを通じて本ソリューションの公式ウェブポータルへのアクセスを許可することができます。そして最終的には経営者の承認の下、こうした担当者に法人に代わって電子小切手を切るための権限を持たせることも可能となります。法人により振り出された小切手は専用のキューに待機し、すべての署名権者のデジタル署名が集まるのを待ってから受取人と共有されます。

支払者や法人から電子小切手を受け取った受取人は、自身の口座に当該電子小切手を預け入れするための依頼を行うことができるようになります。国民識別番号や携帯電話番号、登録コードによって身元が特定されていれば、受取人は自身が受け取る予定の電子小切手の署名が揃った段階で通知を受け取ることもできます。

受取人の預金口座がある銀行では当該銀行口座の認証を行ってから、預け入れされた小切手を取り立てや決済目的で支払い側銀行に受け渡します。

そして支払い側の銀行が電子小切手の決済を行うと、中央銀行において清算処理の記録がされ、資金が受取人の口座へと移動されます。

  1. このソリューションは金融産業をどのように塗り替える?

本ソリューションは従来の小切手の発行・取り扱い・処理・現金化・清算プロセスを自動化するだけでなく、こうしたプロセスを「小切手を取り巻く新たなパラダイム」へと転換するものです。金融産業にとって革新的なソリューションだといえるでしょう。

金融機関は何百万ドルものコストを節約可能

紙の小切手を完全に電子化された暗号記録に置き換えることで、小切手や小切手帳の印刷にかけていた手間が無くなります。これは結果的に紙の小切手帳の印刷コストや配布コストの一切を削減することに繋がります。削減される潜在的なコストについてもっと具体的な例を挙げてみましょう。ある顧客はこれまで年間120,000冊の小切手帳を発行してきました。1冊につき小切手は50枚、そして末端のユーザーはこの小切手帳一冊につき13ドルを負担していました。つまり、ProgressSoftの電子小切手発行ソリューションを導入すれば、1,589,103ドル相当のコストが削減されることになります。またコンプライアンスや風評という観点から、不渡りリスクが削減される点も顧客にとっては大きな価値となっています。

デジタルの力で小切手発行プロセスをスマート化

電子小切手帳を利用できるようになれば、紙の小切手と比べてその発行プロセスは10日短縮されます。さらに、これまで顧客や代理人は紙の小切手処理のために銀行を訪れなければなりませんでしたが、電子小切手の場合、支払口座のある銀行が小切手を発行した直後から支払者は小切手の振り出しや署名ができるようになっています。小切手の振り出し、署名、発行、そして配布といったすべてのプロセスが電子的に行われるようになる上、私たちの暮らしに登場するあらゆるソーシャルネットワークチャネルを通じて共有できるのです。

また、本ソリューションにより、受取人は小切手の預け入れのために銀行や預け入れ機のある場所に行く必要がなくなります。銀行のフロントエンドのチャネルや本ソリューションの提供するモバイルアプリと公式/法人向けポータル機能を利用することで、受け取った小切手の預け入れが簡単に行えるからです。

不正を減らし信頼を強化する

電子小切手の受け取り直後、受取人はそれが正真正銘本物で不正の可能性はないかを確認するため、実際の支払者によって振り出し・署名されたものかを検証します。これが小切手という支払手段の持つ信頼性と取引を行う当事者間の信頼関係を強化します。

プロセスの加速と安全性向上

署名の検証プロセスは従来の紙ベースから暗号ベースのデジタル署名へと完全に置き換わります。デジタル署名は適格電子署名(Electronic Qualified Signature ,EQS)基準に準拠する形で一元的に認証が行われます。これにより、人の手に頼る署名検証プロセスを大幅に削減、小切手の決済プロセスを加速します。これは資金の残高保証という面で、直接的に良い影響を及ぼします。

経済全体へのインパクト

紙の小切手が電子小切手に転換されると、小切手の発行から清算までのライフサイクル全てが簡略化されます。上述の結果に加え、このライフサイクルの簡略化自体が、金融セクターのみならず小切手取引に頼る国の経済全体に変革をもたらすことになるでしょう。

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